お知らせ

ファイナリストの挑戦:「体験」を通してお客様に感動を提供、山梨県都留市の「広告塔」のような存在へ。

tinymany株式会社 代表

黒澤 駿さん

(2021年 生涯活躍のまちビジネスプランコンテスト 最優秀賞)

—これまでどのようなチャレンジをされてきたのですか?

新潟県出身で都留文科大学に進学しました。そして在学中にコミュニティカフェの立ち上げ、経営を経験しました。

学生時代にカフェの文化研究をしており、バックパックひとつで世界50ヵ国のカフェを100軒以上巡りました。各地のお店の人の話を聞いたり、コーヒーの起源とも言われるエチオピアでコーヒーセレモニーというコミュニティを大切にする伝統文化に触れてきました。これらの経験を経て帰国後は、「カフェを通して人と人とのつながりを生みたい!」と強く思い、空き店舗をリノベーションしてカフェを創設しました。

学生時代に立ち上げたカフェは、「学生が地域を盛り上げる」というコンセプトであったため卒業とともに完全譲渡したのですが、その後もカフェやコーヒーへの熱い思いは収まらず、新たに会社を立ち上げキッチンカーとカフェの店舗を始めました。

—生涯活躍のまちビジネスプランコンテストに参加してみていかがでしたか

実はこれまで他のビジコンにも挑戦した経験がありましたが、生涯活躍のまちビジネスプランコンテストは比較的中長期間にわたりメンタリングを受けることができた点がよかったです。期間をかけることでアイデアの整理や検証が可能となり、テストマーケティングも行うことができました。その結果、より現実味を帯びたビジネスプランに仕上げることができたと感じています。

具体的に言うと、来年自分がこの事業をどこまで拡げることができるのか、売り上げがどの程度になるのかといった、ビジネスのシミュレーション精度が向上したように思います。また、都留に詳しいサポーター(コミュニケーターさん)から地域の情報を得ることができ、自分の試算で不足していた部分なども整理できました。

ビジコン終了後、「来年はこのプランで実際に始められる」という自信が生まれました。”Plan”から”Do”に近いフェーズに進んだように感じました。

—実際に事業化してみていかがでしたか?

難しかったです。読み切れていないことが多かったですね。

結局、今取り組んでいる事業は、当初ビジコンで発表したビジネスプランとは少し異なっているんですね。

というのも、最初のアイデアは、「体験を売る」というコンセプトで、キャンプ場で体験型のキッチンカーを展開する計画でした。しかし、実際に試してみると、需要が予想よりも少ないことがわかりました。特に家族連れの場合、事前にキャンプ場での体験プランを計画していることが多く、ニーズが少なかったんです。私はキャンプに無計画で行くことが多かったので、自分の感覚とニーズのずれがあり、続けるのは難しいと判断しました。

その代わりに、キャンプ場を含む屋外でのアクティビティに焦点を当てることにしたんです。ただ、「体験を売る」という基本的なコンセプトは変わっていません。自然の中でみんなで楽しく食べること自体が一つの体験だと気づいたからです。

最近では夜ピクニックが人気ですよね。何かを作ったり手を動かす体験を提供しなければならないと考えていたのですが、外で食べることそのものが体験だと気づいてからは、場所や特定の体験に固執する必要はないんだなと考えるようになりました。

ビジネスは、PDCAの繰り返しですよね。ビジコンのメンタリングで、そのトライアンドエラーの方法を鍛えてもらったので、それを今でも続けているようにしています。

—2023年6月にはカフェも出店されましたね。

カフェの出店は、田原交流センターnicotがオープンすることになり、出店のお誘いを受けたことがきっかけでした。

実は、キッチンカー事業に全て投資をしたところで、出店の話が持ち上がったんです。「やりたいけど、やれない」と最初はお断りしていたんですよ。

しかしカフェを実店舗としてオープンすることで、キッチンカー事業をより大きく展開できるのではないかというアドバイスを受け、最終的には挑戦することに決めました。

これまでは自分のできる範囲で挑戦を続けてきただけで、そんな大規模な事業に踏み込む勇気はありませんでした。

それこそビジコンに出たおかげで物怖じしなかったかもしれないですね。

同時に「都留に骨を埋めなければいけない」という覚悟も新たにしましたね(笑)

カフェをオープンしてから、都留市で生産された食材をキッチンカーやカフェのメニューで提供することも、一つの貴重な体験だと気づかされました。

というのも、カフェの前には野菜の無人販売スペースを併設しているのですが、都留市で収穫された新鮮な果物や無農薬野菜を使った料理をカフェで提供すると、食事を召し上がったお客さんたちが実際にその果物や野菜を気に入って購入してくれることがありました。

「食べる」という何気ない体験を通じて、ファンを獲得することが重要なんだなと感じるようになりました。無人販売スペースの棚が空になるかどうかが、提供した体験が成功したかの指標となりました。

—これからどんなことにチャレンジしたいですか?

若い人や移住してきた人、そして学生たちのチャレンジを後押しできるようになりたいですね。

海外を経験した学生や、英語を活かしたいと考えている学生も多くいます。彼らが活躍できる場やチャンスはあるものの、まだうまくマッチングが進んでいない現状があります。その点で、私は手助けできるのではないかと思っています。

最近では、都留文科大学のサークルの方と一緒にベジタリアン向けのメニューを共同で開発し始めました。また、夏には青山学院大学の学生から将来キッチンカーを持ちたいとのメッセージをもらい、夏休みの1週間ほど来てもらったこともありました。

さまざまな困難にぶつかりながらも、今の場所や成果が生まれました。これらの経験を通して得たものは多くの人に伝えたいな、と考えています。

また、都留、山梨を発信できる広告塔のような存在になりたいです。

「あそこのキッチンカーは都留のだね」と言われるまでになりたいです。キッチンカーを目的に都留に人を集めることができたら最高ですね。都留の魅力を広く知ってもらうきっかけになればと考えています。

それを実現するためには、やはり「体験」を通してお客様に感動を提供し、記憶に残るようになることが鍵だと考えています。

現代はテレビや新聞だけでなく、さまざまな媒体が存在しますが、物理的に何かを手渡し、温かみを感じられる経験がとても大切だと思うんです。これが、僕がキッチンカー事業をやっている使命だとも感じています。

例えば、一杯のコーヒーを丁寧に渡すことができたら、それはきっと記憶に残りますよね。そうした経験を通じて、SNSをやっていない高齢者にも「あそこのキッチンカーに足を運んでみよう」と思ってもらえるようになりたいです。