お知らせ

ファイナリストの挑戦:地域との結びつきから生まれる挑戦、笑顔の居場所づくりへ。河口智賢さんの挑戦

特定非営利活動法人 ぐんないや-織syoku- 代表

河口智賢さん

—子ども食堂を始めたきっかけは?

私はお寺で生まれて、幼い頃からその環境に囲まれて育ちました。しかし、そのままお寺を継ぐことに違和感があり、一度地元を離れて東京の大学に進学しました。

その道から完全に離れることはせず、学びや修行を重ねるなかでお坊さんの生き方に感銘を受けるようになっていきました。

修行をしているお坊さんの生き方は、とても純粋な心に向かっていくものなんです。

ある意味、修行の過程というのはそういうものなのですけれども、しかしいざ修行を終えて日常に戻ると、理想とかけ離れた現実が待ち受けていたんですね。

生計を立てる必要があり、それには「お寺の経営」をしないといけないわけです。

お寺の経営を考えていくと、ある意味で持続可能でない側面があります。

お寺の収益源は主にお布施で、不課税とはいえ、お金がなければお寺の運営が難しくなります。経済合理性とお寺の運営のギャップをどうにか埋める新しいアプローチが必要だと思いました。

そのためには、「お寺はこうあるべき」という古い概念を捨てて、現代社会においてお寺はどのような存在であるべきかを考えるため、未来の住職のためのお寺の経営塾に通い始めました。そこで経営に関する知識を学び、「寺業計画書」も初めて作成してみました。

このプロセスで、「お寺は地域があるからこそ存在する」ということに気付いたんです。

地域に対するお寺の役割を考え直し、元々お寺から派生した活動、例えばコミュニティの形成や寺子屋などに原点回帰してみようと考えました。

この原点回帰がお寺と地域の親和性を高めるのではないかと思ったからです。

そんな矢先、築地本願寺で開催された「仏教とSDGs」というシンポジウムでSDGsという考え方に初めて触れました。当時は、SDGsが国連で採択されて間もない時期だったんですけれども、これはお寺として当然僕らがやらないといけない使命だと感じ、2017年頃から子ども食堂を始めることにしました。それがきっかけです。

—このような活動を始める根底にはどういったご経験があるのですか?

遡ると、東日本大震災で震災地にボランティアとして、被災地に何度も足を運んだことがことが、大きな転機でしたね。

この頃、前述のようにお寺の存在価値について疑問を抱いていた頃だったんです。

その答えを探すために、仲間の青年僧侶と一緒に災害ボランティアとして様々な活動を経験しました。

自衛隊の方々と一緒に瓦礫撤去をしたり、落ち着いてきた頃には僧侶として行者活動もしました。行者活動というのは、お茶やお菓子を持って行って、避難所で話を聴く、いわゆる傾聴ボランティアのことなのですが、傾聴ボランティアは、自分から話しかけたりはしないんです。ただ、お坊さんとして、お茶を配って、話しかけられたことに耳を傾ける、そういう活動です。そういう活動を続けているうちに、少しずつ人が話しかけてくれるようになってきたんですね。

こうした活動を通じて、仏教の教えの根本である「他者のために生きる」というお坊さんの役割に改めて気づくようになりました。それが形を変えて、今も続いています。

—ビジコンにはなぜチャレンジされたのですか?

この活動を継続するには事業として成り立たせる必要があると考え、2022年にNPO法人を立ち上げました。

そこで、考えていたビジネスプランをブラッシュアップをしたいという思いがあって、ビジコンにチャレンジをしました。

よく誤解されがちなんですが、NPO法人は非営利組織ですが、収益を上げてはいけないわけではないんです。もちろん公益性が担保されている必要はありますけれど、目的に沿った活動であれば収益事業をやっても問題はありません。

しかし、全国には5万ものNPO法人があるのですが、その中で自立ができている組織は本当に数えられるくらいしかないんです。

「これはお寺が抱えている経済合理性の壁と同じだな」と思ったんです。NPO法人の目線からもその壁を乗り越えていかないといけないんだなと。私にとってはそういうチャレンジでもありました。

NPO法人を立ち上げたもう一つの理由は、一緒に運営してくれる仲間が欲しいと思ったからです。

今は学生ボランティアが主体となって、学生中心に活動をしているのですが、これを継続するには資本確保や地域連携が欠かせません。

また、毎年卒業する優秀な学生たちとの繋がりが途切れることも残念に思っていました。継続的につながるそういう繋がりを作っていく必要性を感じていました。

—実際にビジコンに参加してみていかがでしたか?

マネタイズの方法にばかり執着しすぎると、ビジネスプランが破綻するんだなというのが気づきですね。それはビジコンにおいての反省点でもあります。

現在でもマネタイズの方法については、乗り越えないといけない課題も多いです。ただ一方で、少しずつ見えてきたこともあります。

私たちの法人は、受益者からの受益者負担が難しい事業であるという特有の性質があって、そこを乗り越えていくためには、活動を見える化して、私たちの活動に興味を持ってもらいファンになってもらうことが必要だと思っています。そして、彼らに応援してもらえる仕組みを作れたらと思っています。

例えば、寄付や応援によって資金を得る仕組みを構築し、クラウドファンディングの実体版のような形ができれば良いなという方向性が見えてきました。

あとは、市や観光協会と協力して観光事業を企画し始めていて、この事業を収益源としてマネタイズする方向性にも少しずつチャレンジを始めています。

—今後の展望について教えてください。

私は「共感社会」をつくりたいんですよね。共感を資本として社会をつくる、そんな助け合える社会ができたら理想的だと思っています。まずはそういう事業を創ることですね。

ビジコンで発表したビジネスプランは、既存事業の子ども食堂で実践した経験を基にさらに多様性を兼ね揃えた居場所、つまりサードプレイスを作るというビジネスプランでした。

これは、一部受益者から負担してもらうというアイデアだったのですが、振り返ってみるとこれでは学習塾と変わらないなと思ったんです。

改めて私たちが実現したい「サードプレイス」とは何か。まずは誰もが「楽しい」と思える場を作っていくのが必要なんじゃないかと改めて気づかせてもらいました。

というのも、子ども食堂「つる食堂」に来ることを、子どもたちはとても楽しみにして来てくれているんです。「つる食堂」は、コミュニティを通じて成り立っていて、多くの人がこの活動に共感をして協力してくれています。最近で言うと、小学生の頃に「つる食堂」に通っていた子どもが、高校生になって運営に携わってくれるようになったんですよ。

だから、これが私たちの理想とする型なのかもしれないと思いました。改めて原点に立ち返ることができました。

「サードプレイス」はまだ収益化には至っていませんが、場を作ることから始めました。

何かしらの理由で居場所がない子ども、そして親たちにもこういう場があるということが重要だと思っているんです。「地域との共生」が鍵であると気付かされたんです。

子どもが好きと言ってくれる居場所を作ることは、人口減少の歯止めにもなると思います。移住促進にもつながると思います。子育てしやすい場所があること、それは人が住みたいと思う条件だと思うからです。

都市部への人口流出を防ぐためには、子供が自らここがいいと言ってもらえる場所を地方の中に作って、増やしていくことが必要だと考えています。そういった受け皿となる役割を果たせるようになりたいですね。